クラウンの生き方を見せる
日常生活の中にある滑稽さこそが、自分の求めるクラウンの姿
ロシア風日本人道化師・クラウンYAMAさん
「クラウン(CLOWN)」とは「道化師」のこと。日本ではクラウン=ピエロと思われているようですが、本来ピエロはお芝居の中に登場する道化役の名前で特定の人物を指し、クラウン全体を示すわけではない、ということです。そこで今回はロシア風日本人道化師のクラウンYAMA(ヤマ)さんにお話を伺いました。
落語やコントをやりたい、と高校を卒業して愛知県から千葉県市川市に居を移したYAMAさんは、アルバイトで入ったサーカス・レストランでクラウンのショーに魅了され、クラウン芸の世界へ入りました。
「店に出演していたクラウンに弟子入りしてさまざまな芸を習い、3年後にはその店のショーに出演させてもらいましたが、残念なことに店がつぶれてしまいました。その頃には他でも仕事はありましたが、もっとちゃんとクラウンの勉強したいと思っていました」
ロシアからクラウンを招へいしていた人に縁あって、ロシア国立モスクワサーカス学校の校長宛てに紹介状を書いてもらったYAMAさん。26歳で4年制の学校のクラウン科で一年間を留学生として過ごし、技を磨きました。
ソロ公演でのクラウンYAMAさん。「一生懸命な姿に笑いを誘うのが僕のクラウン」
クラウンにはヨーロッパとアメリカ、2つのスタイルがあるといいます。アメリカのクラウンは別世界の生き物で、常識ではあり得ないことやギャグなどのパフォーマンスを披露するエンターティナー。それに対してロシアを含むヨーロッパのクラウンはあくまでも“人間”。人間であるクラウンが懸命に何かを行う、その姿がユーモラス。それがヨーロッパ・クラウンの魅力だと言います。
「例えばアメリカでは、クラウン同士が互いに握手をしようとしてもすれ違っていつまでも握手できない、というもの。これが右手と左手だったら握手ができないのは当然だけれども、遠くから駆け寄ってきてそのまますれ違うというのは、現実にはあり得ない世界。一方ヨーロッパ式では、目ヤニを指で拭って、その指を拭くものがないからまた目に戻す、というような事がクラウンなんです。僕が魅かれたのはヨーロッパのクラウン芸です」
オーバーアクションで見せるアメリカ式のクラウンを不自然に感じたYAMAさん。日常生活の中で見せる滑稽な様子こそが、自分の求めている道化なのだと確信しました。
韓国では室内での舞台公演のほか野外公演にも出演、言葉を使わない芸は世界中どこででもコミュニケーションできるのが強みです
帰国後は日本の伝統芸への強い関心から、江戸太神楽十三代家元鏡味小仙に2年間師事するとともに、横浜「野毛大道芸」や各地フェスティバルをはじめ、韓国インチョンの「クラウンマイムフェスティバル」やシンガポール「パフォーマンスフェスティバル」にも出演するなど、国内に留まらず海外にも活躍の場を広げてきました。幼稚園や小学校、児童館などからの出演依頼も多いYAMAさん。公演の後には子どもたち相手のトークショーも行います。
「手が冷たいから両手をこすって温める。そのうち手がくっついて取れなくなる。お客さんにも取れなくなってしまったことを教える。そして“取れないね”と双方で共感する、その瞬間が面白い。僕のやるクラウンはそういうクラウンだよ、と子どもたちに語ります。おじさんがドアの前でずーっと立っている。いつまでたってもドアが開かない。よく見るとそこに手動ドアと書いてある。だから開かないんだと、その瞬間がクラウンだよ。クラウンは身近にある。それを発見すると楽しいよ、と」
YAMAさんはまた、ソロ活動のほかにもオペラ歌手・宮城摩理さんとのユニット「青い卵」でも活動をしています。「オペラとクラウンはクラシックという意味でも世界感が似ています」とYAMAさん。台詞を使わず歌と身体表現で繰り広げられる二人のショーで、敷居が高いと思われがちなクラシックの世界を子どもから大人までが気軽に楽しんでもらいたい、と言います。
韓国インチョン「クラウンマイムフェスティバル」舞台公演
そんな中、今年3月に起こった東北地方太平洋沖地震に強いショックを受けたYAMAさん。大道芸人を中心としたパフォーマー連合「被災地応援パフォーマンス団」にも参加し、被災地の人々を応援する活動を続けています。
「実は被災のあった直後、居ても立ってもおられずに物資を届ける人に同行して女川へ行きましたが、あまりにも悲惨な現状で、クラウンとしての僕は何の役にも立てなかった。でも夏に改めてNPO主催のプロジェクトなどに参加して、ようやく僕の役目を見つけました」
「被災にあった人々は、笑える心ではない」とYAMAさんは言います。衣装もメイクもせず、素顔のままで芸を披露しました。「僕らクラウンの役目は、彼らの心を引き上げる力になること。クラウンは大道芸とは違う。見かけは関係ない。無理に笑わせるのも違う。もしかしたらただ話を聞くだけでいいのかも知れない」、そして彼らに「寄り添って行くこと」だと。
「クラウンは人の純粋な姿。多くの人にクラウンを知ってもらいたいです。上手く行かなくても、トラブルがあっても、悲しい時でも、一生懸命に前向きに生きていくクラウンの姿は僕の理想。クラウンのように生きていきたい」と語るYAMAさん。クラウンとは、その生き方を見せるものなのだと、取材を通して心に強く感じました。
情報提供:クラウンYAMA